「色々と世話になったな、ラインハルト様」
「やはり考え直してはくれぬか。卿には今度結成するサユリのプリンセスガードに加わってもらいたかったのだがな」
あの事件から数日間、ユキトは新無憂宮で時を過ごしていた。その間ラインハルトから新しく結成するサユリのプリンセスガードに加わるよう頼まれたが、それを丁重に断わり、ユキトは再び旅に出ようとしていた。
「ああ。俺は嘗て自分の主を守り切れなかった男だ。そんな俺にプリンセスガードなどは務まらんよ」
「卿がそういうのなら止めはせぬ。ところでこれからどうするつもりなのだ」
「そうだな。とりあえずランスの聖王廟でも見に行くか」
「ほう、ランスか。それでどのような道筋で行く予定なのだ?」
「ああ。船でリヒテンラーデに向かい、キドラント、ユーステルムを経由し、その後は陸路でランスに行く予定だ」
「ほう。しかしその道筋では遠回りではないか?船でハイネセン経由でファルスに赴き、そこから陸路で行く方が近道であろう。それとも遠回りで行くのに何か理由があるのか?」
敢えて遠回りで目的地に向かおうとするユキトに、この男だから何かしらの考えがあるのだろうとラインハルトは思い、その理由を訊ねた。
「リヒテンラーデに知り合いがいるんでな、その人に会ってからランスに向かおうと思っている。それとその道程で、アスターテ海を荒らす海賊ダスティ=アッテンボロー、ユーステルムを守る北方の警備隊、薔薇の騎士連隊長ワルター=フォン=シェーンコップなどの名立たる豪傑達と己を鍛える為に手を合わせてみたいと思ってな」
ユキトは旅を続ける中、ミスズを守り通せなかった事をずっと悔み続けていた。そして自分の非力さに二度と悔みを感じないよう、旅の過程で己を鍛え続けていた。
「フム、シェーンコップの方はともかく、アッテンボローの方は魔海候フォルネウスに船事海に沈められたという噂だな」
「そうか…」
世界中の海を駆け回り伊達と酔狂に生きる海賊アッテンボロー、北方のユーステルムを守護する屈強の集団、薔薇の騎士連隊を指揮するシェーンコップ…。それらの話はすべてエル=ファシルに滞在していた時聞いた話だった。その話が既に古い話になっている事に、ユキトは時間の経過の長さを感じられずにはいられなかった。
(それにしても魔海候に襲われたか…。この分だと他の魔貴族もアビスの底から這い上がって来た可能性が高いな…。フッ、面白い…ならばその魔貴族を再びアビスへと押し返すまでだ…!)
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SaGa−6「それぞれの道」
「おっ、誰かと思えばユウイチじゃないか!」
「そういうお前はジュン!ひょっとしてお前もラインハルト様に呼ばれたのか?」
「まあな」
あの事件の日から数日後、ジュンとユウイチの二人はそれぞれ新無憂宮に呼び出されていた。互いに互いが呼ばれた事を知らずに、宮殿の前で顔を合わせた事に驚きを感じた。
「ラインハルト様、例の二人が着いた模様です」
「分かった。丁重に玉座の間へ案内するように」
「はっ」
ラインハルトの命を受けた兵が玉座の間から出、そしてジュンとユウイチの二人をラインハルトの元へ案内させた。
「さて、卿等に来てもらったのは、各々に頼みがあるからだ。まずはユウイチ、卿にはハイネセンへ赴いてもらいたい」
「えっ!?私がどうして…また、そんな……」
突然のラインハルトの申し出に、ユウイチは困惑した。何かの使いなのだろうか、それにしても何で自分のような庶民が頼まれるのだと。先のサユリの護衛をした功績からの線も考えられたが、それにしては唐突過ぎる申し出だとユウイチは思った。
「その件に関しましては私が詳しくお話致します。さ、ユウイチ様こちらへ」
「えっと、貴方は…」
ラインハルトの側に付き従う紳士的な長身の赤髪の男に声を掛けられ、ユウイチは思わず名前を訊ねた。
「自己紹介がまだでしたね。私はジークフリード=キルヒアイスと申します」
「ジークフリード…貴方が……」
その名を聞いて、ユウイチは初めて長身の赤髪の男がキルヒアイスである事を理解した。あのオーベルシュタインが自ずと事件が解決に向かうと評価した男、そしてサユリ様から絶大なる信頼と敬愛を受けている人物が目の前の男なのだと。
「ではユウイチ様。詳しいお話は奥の方で…」
「あっ、はい」
キルヒアイスに案内され、ユウイチは玉座の間から立ち去った。
「それでラインハルト様、俺…いえ私には一体どのようなご用で」
ユウイチがキルヒアイスに付き従い玉座の間を出るのを見送った後、ジュンはラインハルトに自分が呼び出された理由を訊ねた。
「うむ。実は今度サユリのプリンセスガードを結成しようと思っているのだが、それに卿に加わってもらいたいのだ」
「えっ…!?」
ラインハルトのあまりにも突然の問いに、ジュンは返す言葉がなかった。
「これは卿の前に余の申し出を断わったユキトの勧めでもある」
「えっ…あのトルネードが」
「そうだ。あのジュンという男なら自分の代わりが務まるかもしれないと言ってな」
その話を聞き、ジュンの方向性は決まった。あのトルネードが自ら自分を推したのだ。あの時少しの時間だがユキトと同じ時を過ごしたジュンは、トルネードと呼ばれるユキトの実力に少なからず尊敬の念を抱いていた。自分尊敬の念を抱いた男に勧められたのだ、断わる訳にはいかないと。
「少し時間を下さい……」
「そうだな、確かにすぐには決心が付かぬものだな。では今日はもう下がって良い、答えが出たならいつでもこの宮殿に来るが良い。良い答えを期待しているぞ」
「はい」
深々と頭を下げ、ジュンは玉座の間を後にした。方向性は決まっていたが、ジュンは最後の一押しが出来ずにいた。恐らくユキトが自分を勧めたのはあの時自分が身を挺してサユリ様を守ったからでろう。しかし自分程の人間にユキトの代わりが務まる筈がない。ラインハルト様やユキトの気持ちには応えてやりたいが、もう少し考える時間が欲しかった。
「ふ〜。とんでもない事を任されたもんだな…。さて、ユウイチの方はどうするんだか……」
自分とは違いハイネセンへ赴くように言われたユウイチはどう答えるのだろう。その答えをユウイチから聞いてから自分の道を決めるのも悪くはない。そう思いながらジュンは、シノンの村へ戻って行った。
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その頃ユウイチは、別室でキルヒアイスから詳しい話を聞いていた。
「それでユウイチさん、お聞きしたい事があります。これはユキト殿から聞いた話なのですが、あの事件の晩、貴方は七年前ハイネセンである少女に出会ったという話をしていたと聞きました。この話は本当でしょうか?」
「言われてみればそんな話をしていましたね。確かに七年前ハイネセンで、何処かのお嬢様っぽい女の子に会いましたね。もっとも、顔も名前も覚えていませんけど。でも、それが何か…?」
「ええ。実は私は今とある女性に仕えているのですが、そのお方が七年前出会った少年に再びお会いになりたいと申しているのです」
「それが俺だと…」
「確信は持てません、ですが可能性はあります。それで一つ確かめたいことがあるのです。そのお方は七年前、その少年から赤いカチューシャ別れる記念に貰ったとおっしゃっています。ユウイチ殿はその少女に赤いカチューシャをプレゼントしましたか?」
「赤いカチューシャ……」
そう訊ねられて、ユウイチの脳裏に七年前のハイネセンの記憶が映し出された。町端であった少女…その少女と過ごした短くも楽しかった日々…そしてシノンへ帰る時少女に手渡した……、
「そうだ…間違いない、俺は確かにあの時赤いカチューシャをプレゼントした……いや、待て…それだけじゃまだ…その少女の名前は……」
「アユ…私の使えている方はそう申されます」
七年前の少女の名前を思い出そうとしているユウイチに、キルヒアイスはその答えを導き出すようにアユの名を語った。
「アユ…そうだ…アユ、アユ=フォン=マリーンドルフ…。あの少女はそう言った筈だ!」
記憶の片隅に残っていた僅かな記憶とキルヒアイスの導きを元に、ユウイチの脳裏に七年前の少女の名が鮮明に蘇った。
「ええ…その名は紛れもなくアユ様のお名前です。それでは改めてお願い致します。これから私はハイネセンのアユ様の元へ戻りますが、その時ユウイチ殿にご同行を願いたいのです。何としてでもユウイチ殿をアユ様に会わせたいのです!」
「ジークさん…。分かりました、俺、アユに会いに行きます」
一瞬悩みはしたが、真剣なキルヒアイスの態度を見て、ユウイチは腹を決めた。ラインハルト様の片腕とも呼ばれる男がこれだけ自分にお願いしているのだ、その期待に応えない訳にはいかない。それに何より、自分をずっと待ち続けている思い出の少女、アユの願いを叶えてやらなければならないのだと。
「ユウイチ殿、有難うございます」
「ただ、予め家族や仲間に旅立つ事を伝えなくちゃならないんで、旅の準備も含めて一度シノンへ戻ってからまたここに来ます」
「ええ。それから出立は明日の午前中の予定ですので」
「分かりました。なるべく朝早く来ますよ。ではまた明日」
キルヒアイスに深々と頭を下げ、ユウイチは別室を後にした。
(やれやれ…まさかこんな展開になるとはな…。まあ、いいか。俺の方も会ってみたいと思っていたし)
アユが自分に会いたいと思っていたように、自分もアユに会いたいと思っていた。その二人の想いが重ね合い道が開けたのだ。そんな事を思いながら、ユウイチは旅の準備を整える為シノンへと戻って行った。
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「よう、ユウイチ。どうやら俺の方が早かったようだな」
「ジュン!やれやれ、考える事は同じか…」
シノンへと戻って来たユウイチは、その足で村の酒場へと向かった。するとそこにはジュン、カオリ、シオリの一同が既に集まっている所だった。
「何でもジュン君がラインハルト様からサユリ様のプリンセスガードを勤めるように頼まれて、一人で決められないからって私達を呼んだのよ」
「へぇ〜、偉い出世じゃないか、ジュン」
「しかし、俺には荷が重過ぎるような気がするんだよな…」
「あら、そんな事ないと思うわよ。あの時モンスターから真っ先にサユリ様を護ったのはジュン君なんだから。もう少し自分に自身を持ったら?」
「そうだな…。う〜し、じゃあいっちょやってみるか!」
幼馴染みで幼い頃からの自分を知っているカオリの一言に推され、ジュンは決心を固めた。思えばカオリは皮肉めいたキツイ一言が多いが、的を得ていない発言をする事はあまりなかった。そのカオリが自分に見込みがあるみたいなことを言ってくれたのだから、迷う必要はないとジュンは思った。
「それよか、ユウイチ。お前の方はどうするんだ?」
「ああ。俺はここに来る前から腹は決めてある」
そう言い、ユウイチは自分がハイネセンへ赴く理由を語り出した。七年前に出会った少女のがその時から少女がずっと自分と会うことを待ち続けている事、その期待に応える為に自らハイネセンへ赴く腹を決めた事を。
「この間の娘の所在が分かったのですね。それは良かったです」
「ありがとうシオリ。それにしても、この酒場から始まったんだよな…」
「ええ……」
そうユウイチに頷き、シオリはあの嵐の晩を回想した。自分はいつも姉の言う事を聞いていてその意見に反対する事はなかった。あの晩、初めて姉の意見に従わず、自分の考えで、自分の意思で行動した。それから今日に至るまでは、まるで自分の新たな道が開けかけていたようだった。戦いの最中に初めて唱えるのに成功した術、ユリアンという名の少年との出会い、そしてオーベルシュタインの放ったあの一言…。シオリはこの数日間で確実に自分の運命が切り開いて来たのを自覚していた。
「あのユウイチさん、お願いがあります…。私も連れていって下さい!」
「えっ…?シオリ、いきなり何を…」
「ユウイチさん。私、旅に出たいんです…。自分を見つめ、自分の運命を自ら切り開く旅に…」
回想を終えたシオリの胸には一つの決心が芽生えていた。このまま村に留まったままじゃ自分の運命は切り開かれない、だから自分も旅に出たい。そうすれば運命の道が切り開かれそうな気がするからと。
「駄目よ、シオリ!貴方に旅はまだ早いわ!」
「お姉ちゃん、お願い!旅に出させて!!私、このまま村にいるだけじゃ何も変わらない気がするの!だから…」
キツイ顔をし断固として反対するカオリに、シオリは必死の懇願をした。そのシオリの必死さにカオリは降参したように顔を和らげた。
「シオリ…。分かったわ……」
「お姉ちゃん…ありがとう…!」
真剣なシオリの眼差しを見て、カオリはシオリの願いを無視する事が出来なかった。いつも私の言う事を聞いて私に甘えていたシオリ、今目の前にいるシオリはそんな子供のシオリではない。自分で考え、自分で行動する大人のシオリだと…。
いつまでも子供だと思っていた可愛い妹、その妹が大人へのステップを歩もうとしている。ならばその道を歩ませてやるのが、姉としての自分の役目だ。そう思い、カオリはシオリの願いを聞き入れた。
「だけど一つ条件があるわ。私も一緒に付いて行くこと」
「カオリまで…」
「ユウイチ君一人に可愛い妹を任せておけないわ。だから私も付いてく。文句ある?」
「いや…俺は構わないが…肝心のシオリの方はどうなんだ?後はシオリ次第だぜ」
正直ここまで話が大きくなろうとはユウイチは夢にも思わなかった。だけどシオリの旅立ちたいという気持ち、カオリのシオリを見守りたいという気持ち、その両方の気持ちが理解出来、無駄にはしたくない。後はシオリが最終的な判断を決めるだけだ。そう思い、ユウイチはシオリの気持ちに身を任せた。
「私は構いません…。お姉ちゃんは私を心配して言ってくれてるんですから…」
「決まりね。ところでユウイチ君、いつ旅立つの?」
「ああ、明日の朝早くには旅立とうと思う」
「分かったわ。じゃあシオリ、早速家に帰って旅の支度を始めましょ」
「うん」
そうして姉妹は寄り添うようにして酒場を後にした。
「お姉ちゃん、ありがとう…。私が旅に出る事を許してくれて」
「シオリももう子供じゃないからね。でも、旅先には何が待っているか分からないわ。だから姉としては妹の身をしっかり見守ってあげたいのよ」
「お姉ちゃん…」
愛情の込められた感謝の目でカオリを見つめるシオリに対し、カオリの心は複雑だった。本当は一人で旅に出させてあげてもよかった、だけどこのまま旅に出すともう二度とシオリは自分の元に戻って来ない気がした。自分も旅に同行する…その想いは大切な妹を手放したくないという、カオリ自身の願いが込められたものだった。
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「そうか…あのユウイチという男が……」
「ええ。これでユウイチ殿とアユ様を会わせればひとまず終わります」
ジュンとユウイチに用件を伝えた後、ラインハルトは自室でキルヒアイスと二人きりの談話をしていた。
「ひとまず…どういう事だキルヒアイス、それでお前の役目は全て終わるのではないか?」
「いえ、まだ終わりではありません。アユ様は長いスラム街の生活ですっかりお身体を弱められてしまいました。このまま今の生活を続けていればいずれ…」
「言いたいことは分かる。ようは元の生活を送れるように、マリーンドルフ家を再興させるという事か」
「ええ。もっとも嘗ての勢いを取り戻す事やトリューニヒトへの報復などは考えておりません。ただ、元住んでいた屋敷、それを取り戻すのが私の願いです」
「お前の願いか…」
そう言われて返す言葉はラインハルトにはなかった。キルヒアイスは片腕を失うまで自分を守る為に尽くしてくれたのだ、そんな男の願いを叶えてやるのは当然だとラインハルトは思った。
「それでいつ出立するのだ?」
「明日の早朝の予定です」
「そうか。キルヒアイス、お前がまたいなくなるとサユリ悲しむ。出立する前に必ずその旨をサユリに伝えておくのだ」
「はい。では失礼ながら今から…」
「分かった。下がって良いぞ」
ラインハルトに礼をし、キルヒアイスは自分が明日出立する事を告げるべくサユリの部屋へと向かった。
「サユリ様、お入りしても宜しいでしょうか?」
「ジーク様!あははーっ、もちろん構いませんよ〜」
自分の部屋を訪れたキルヒアイスをサユリは笑顔で快く部屋へ迎え入れた。
「はぇ…、やっぱりお戻りになりますか…」
「ええ、申し訳ありません…」
キルヒアイスがハイネセンへ戻る旨を本人から伝えられ、サユリは寂しさを表わした。幼い時からラインハルトを通しての親しい仲だったキルヒアイスは、サユリにとってもう一人の兄のような存在であった。兄の側に居ていつも兄を支えて来たキルヒアイスは、サユリにとって憧れで愛情を抱かせる存在だった。
「いえ、それがジーク様のご意志ならサユリは何も申しません…ただ……」
「さ、サユリ様……」
胸の内に秘めた寂しさをすべて放出するように、サユリはキルヒアイスにぎゅっと抱き付いた。
「でも、すべてが終わったその時は必ず、必ず戻って来て下さい……」
「ええ…。必ず戻って来ます……」
自分に抱き付くサユリの頭を優しく撫でながらキルヒアイスは思った。思えば初めてこの兄妹にお会いした時サユリ様が私に言った言葉…
「ジークさん、お兄様と仲良くしてやって下さいね」
…その言葉がきっかけとなって今の自分があるのだと。そう―今の自分があるのもすべてはそのサユリ様の一言が始まり…。ここに必ず戻ってくる事、それが自分を今の自分に導いてれた人の願いならば、その願いに尽くさなければならないと……。
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「……」
辺りに夕闇が迫った頃、マイは一人宮殿内の庭園で黄昏ていた。
「マイ様…」
「ジーク…」
するとそこへキルヒアイスが現れ、マイの方へ近付いて来た。
「いつ…戻るの…?」
「既にご存知でしたか…。明日の早朝に出立する予定です」
「サユリが心配するから…必ず戻って来てね……」
そう言うマイ自身キルヒアイスに戻って来て欲しいと思っていた。しかし自分の素直な気持ちを言う事が出来ず、言わばサユリを盾に自分の気持ちを代弁させたようなものだった。
「ええ。ですが、私が戻って来ますのはサユリ様の為ではありません…」
「それはどういう…!?」
突然キルヒアイスがマイを抱き締め、そのあまりに突然な行為にマイは言葉を失った。
「私がここに戻って来るのは何よりマイ様、貴方の為です…」
「……」
その言葉を聞いてマイの胸は嬉しさで一杯だった。尊敬し好意を抱いているキルヒアイスの口から自分を心配する言葉を聞けた事が何より嬉しかった。
「フフ…こうも簡単に行くとはな……」
「えっ…!?」
「パァァァ…!」
不可解なキルヒアイスの言葉の後、突然七色の光がキルヒアイスから発し、マイは目を眩んだ。
「くっ…これは…精霊石…!でも何故…」
「どうやら俺の変装に気が付かなかったようだな!聖剣マスカレイド、確かに頂戴した!!」
「変装…マスカレイド……!!」
先程まで自分の側に居たキルヒアイスが偽者である事を理解し、マイは視界を回復しない状態で腰を探った。
「今頃気付いても遅いわ!ハハハハハ……」
闇が辺りを覆い始めた空間に響くマイを嘲笑う声。マイが視界を回復させた時には、マスカレイドを奪った者の姿は既にそこにはなかった。
「くっ……」
悔しさや悲しさ、せつなさなどのやるせない気持ちを抱き抱えながら、マイはその場に悶えるように膝を付いた。
「……っ!!」
歯を噛み締めるような表情をし、マイはポロポロと涙を流し始めていた。サユリとジークの間に自分が入る余地などない、そう分かっていた、分かっていた筈なのに…。
自分のキルヒアイスに対する想いが、皮肉にも己自身に隙を与え、あろう事かマスカレイドを奪われる羽目になった事に、マイは胸が張り裂けそうな思いを抱いていた。
(…取り返さなきゃ……)
そう思い立ち、マイは奪われたマスカレイドを自ら取り戻す決心をした。マスカレイドはローエングラムの家宝とも呼べるもの、それが自分の責任で奪われたのだから自ら取り戻しに行かなくてはならない。そして何より、マスカレイドはジークから渡された自分にとってジークの身代りとも言えるもの。その小剣を肌身離さずいる事で叶えられる筈のないジークへの想いが少しでも和らいでいたのだからと……。
|
再び旅を続けるユキト。アユに会う為ハイネセンへ赴くユウイチ。自ら運命を切り開く為ユウイチに付き従うシオリと、その妹を手放したくない気持ちから同行する事を決めたカオリ。サユリのプリンセスガードを務める決心を固めたジュン。旅立つキルヒアイスの帰りを待ち続けるラインハルトとサユリ。そして奪われたマスカレイドを自ら奪還しようとするマイ…。
それぞれがそれぞれの道を歩み始めた…。いずれは一つに交わるであろう運命に向かって……。
…To Be Continued
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※後書き
とりあえず冒頭に名前が出て来たアッテンボローさんとシェーンコップさんは、名前だけ出たという感じで、双方とも暫くは出ないと思います。二人のファンの方々は今暫くお待ち下さい。
さて、何気に三角関係っぽいキルヒアイスと佐祐理さんと舞ですが、実際の所はキルヒアイスと佐祐理さんが相思相愛で舞が横恋慕という形です。舞ファンには辛い設定かもしれませんね…(苦笑)。しかしまあ、この二人は自分の好きなキャラクター同士をくっ付けたという感じで、正直趣味丸出しです(笑)。原作に従いますと、潤、佐祐理さんと結ばれる形になるのでしょうが、北川如きに私の佐祐理さんをくれてやる訳には行かないと思い、自分の敬愛するキルヒアイスと結び付けた次第です(爆)。まあ、潤は最終的に香里とくっつく展開になると思います。
さて、ストーリーの方はそれぞれがそれぞれの目的で自分の道を歩むという形になっております。現状の段階ではアビスゲートを閉じるというのを直接的な目的にしているキャラクターはおりませんので、どういった展開で四魔貴族との戦いになるかが今後の課題だと思っております。まあ、四魔貴族戦には暫く突入しないと思いますので、今は主人公達がどういった道を歩むのかを楽しみにお読み下さいね。 |
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